工場・倉庫
2022.10
三重県
株式会社安永
ダイキンエアテクノが提案してくれたSHIFT事業補助金を活用し、工場の環境改善と脱炭素化を目的とした空調機の更新を行うことができました。今後は名張工場と西明寺 第2工場にも展開していく予定です
従業員の職場である工場の環境改善のため、空調機の更新を行った株式会社安永。今回の更新経緯や効果について、管理本部 本部長 北村 直紀様、同部 人事総務部 総務グループ グループ長 清水 次郎様、同グループ 主任 奥田 智裕様、部品事業部 製造部門 第2製造部 西明寺生産1グループ グループ長 今矢 博文様、同部門 工務部 工務グループ 係長 倉澤 慎作様に詳しく伺いました。
目次
建物: | 工場(鉄骨造)/延床面積6,000m2 |
---|---|
工事概要: | 第1工場 空調設備新設・温風暖房機撤去・地下タンク(15t)撤去 |
導入機器: | 工場用エアコン(10馬力×3台、8馬力×7台、5馬力×12台)、ヒートポンプエアコン 7系統、エアー搬送ファン 32台 |
1.エンジン部品、工作機械などを製造・販売
株式会社安永様の会社概要をお聞かせください。
当社は初代社長 安永 芳房が1923年6月に創業した安永鉄工所が始まりで、創業当時は主に農機具などの製造・修理を行っていました。現在は三重県伊賀市に本社を置き、自動車・産業機械分野におけるエンジン部品、工作機械、太陽電池・電子・半導体分野における検査測定装置、ワイヤソー、環境機器分野におけるエアーポンプ、ディスポーザなどを製造・販売するグローバル企業へと成長。ニッチ市場を創造しながら独自技術を育て、顧客との協業関係を育みながら、顧客の問題解決に努めています。今後も地域、顧客、製品での「グローバルニッチNo.1」を積み重ね、より大きな市場へ活躍の場を広げていきたいと考えています。
2.発端となった職場環境の改善について
空調機の更新に至った背景・課題をお聞かせください。
職場の環境改善が背景にありました。もともと伊賀地方は、内陸性気候で冬はとても寒く長い半面、夏は短いという特徴があって工場に冷房用の空調機は入れていませんでした。ところが、世界的な温暖化の影響もあって、ここ数年は夏の暑さが長く続くようになりました。
そこで、当社の経営層が従業員一人ひとりに働く環境についてヒアリングしたところ、多くの従業員から「夏場の工場は暑い」という回答がありました。もちろん、何も対策していなかったわけではなく、スポットクーラーなどで対応はしていました。ただ、スポットクーラーは工場全体を冷やすための機器ではなく、一部の従業員に向けて冷風を送るだけのものですから、涼しいと感じる場所は限られています。しかも、1人に1台用意されているわけではありません。
工場の従業員向けに、空調服を用意したこともありました。しかし、工場自体が暑いため、結局は暑い風が入ってくるだけで評判は芳しくありません。身軽さを要求される現場も多かったため、定着することはありませんでした。そこで、あらためて工場全体の空調設備を見直したところ、冬場の暖房機の課題も浮き彫りになってきました。
新たな課題として浮彫になったCO2排出についてお聞かせください。
当社では、冬場はA重油を燃料とする重油暖房機を使っていたのですが、大きな課題が3つありました。ひとつは化石燃料を燃やしている関係上、やはりCO2排出の課題がありました。脱炭素社会、SDGsという社会の課題に対して会社全体での取り組みはもちろん、自動車メーカーとの取り組みで年3%ずつCO2を削減していくスキームもあったため、重油暖房機からの脱却は不可避という状況でした。
もうひとつは、A重油を保管する地下貯蔵タンクの課題です。2010年6月の消防法改正により、地下貯蔵タンクの腐食を防止する対策として、設置年数の上限は40年と義務付けられました。それに抵触するのが西明寺工場の地下貯蔵タンクです。地下貯蔵タンクを廃棄するのか、流出防止対策を講じて更新するのか、新たに地上に貯蔵タンクをつくるのかという選択に迫られていました。
そしてコストの課題です。重油暖房機を設置した当時の重油価格は30円/L前後。低コストで利用できる暖房機でしたが、現在は90円/Lを超える時代です。冬3カ月の暖房機の重油代+年間のメンテナンス代のランニングコストは、2,200万円前後に膨らんでいました。毎年じわじわと上がってきたため、切り替えのタイミングが分からないまま利用し続けてきましたが、さすがに厳しいと言わざるを得ません。
そこでまずは、地下貯蔵タンク問題がひっ迫している西明寺工場を対象に、前述した課題解決を目的とした空調機の更新プロジェクトを実施することにしました。
3.補助金・助成金を活用し安価に導入したい
空調機の更新に求めた要件をお聞かせください。
従業員が働く職場の環境改善を最重要課題に置き、効率や費用面を要件にしました。効率というのは一部の場所、従業員ではなく、どの場所で働く従業員も「涼しい」あるいは「暖かい」と感じる空調機の最適化です。工場には機械熱があり、熱を発する設備がフル稼働している部門は、夏は暑く冬は暖かくなります。逆にほぼ機械熱が発生しない組み立て部門は、夏は涼しく冬は寒い場所になります。このように工場は、部門や利用する設備・配置によって温度・湿度が変わるため、そうした工場の状況を理解し分析したうえで、空調機の効率的な活用方法を提案してくれる業者を求めました。
費用面についてはこれだけの規模ですから、ある程度コストがかかることは承知していました。しかし、安価に抑えたいのは否めません。そこで、検討していたのが補助金・助成金の利用です。ただし、当社だけでは知識が不足していますから、補助金・助成金の知識が豊富な業者にアドバイスやサポートをしていただきたいと考えていました。
業者の比較・検討をされましたか。
当社規模の事業者が行う環境改善の取り組みは、これまでお付き合いのある業者にとっても大きな案件になるらしく、お声掛けはしましたが、どの業者も二の足を踏む状況でした。
しかも、空調機の効率的な活用方法の提案や補助金・助成金のサポートとなると、さらにハードルが上がってしまい、積極的に手を挙げてくれる業者はいませんでした。
4.補助金・助成金の知見に期待
ダイキンエアテクノに空調機の更新を依頼した背景をお聞かせください。
ダイキンエアテクノとは東京センターでお取引があったものの、伊賀の工場とは接点がありませんでした。しかし、前述した厳しい状況のなか、手を挙げていただいたのがダイキンエアテクノです。空調事業における世界的企業の一員というのは存じ上げていましたが、これまでお付き合いがなかったため、どうするべきか迷いました。そうしたなか、当社がダイキンエアテクノにお願いすることを決めたのは、以下の2点が決め手でした。
同規模工場の施工実績を見学
当社と同規模の他社の工場が近隣にあり、そこで空調機を更新した施工実績があるとのことで、工場見学をお願いさせていただきました。その工場では、ゾーンごとに快適な空調環境を構築できていることと、当社のように生産ラインが変動する職場に応じて、後付けで施工対応もできる技術を確認できました。成功事例を実際に拝見させていただいたことで、信頼感が一気に高まりました。
補助金・助成金における十分な知見
ダイキンエアテクノは、保有している空調機器の種類や改修時期の要望に応じ、最適な補助金・助成金を提案できるとのこと。今回、当社の空調機の更新においても、真剣に相談に乗っていただきました。そこで、ダイキンエアテクノから提案いただいたのが環境省のSHIFT事業補助金※。燃料転換によってCO2削減に貢献できる点を考慮し、提案いただいたわけですが、当社としても異論はありません。SHIFT事業補助金の申請から交付までサポートいただけるとのことで、今回の空調機の更新はダイキンエアテクノにお願いすることにしました。
工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT事業:Support for High-efficiency Installations for Facilities with Targets)の補助金。工場・事業場での脱炭素化のロールモデルとなる取り組みを創出し、その知見を広く公表して横展開を図り、2030年度温室効果ガス削減目標の達成や2050年カーボンニュートラルの実現に貢献することを目的として、意欲的なエネルギー起源CO2削減目標を盛り込んだ脱炭素化促進計画を策定する事業(脱炭素化促進計画策定支援事業)および、脱炭素化促進計画に基づき高効率機器導入・電化・燃料転換・運用改善を実施してCO2排出量を削減し、排出量の算定及び排出枠の償却を行う事業(設備更新補助事業)に対して補助金が交付される。
SHIFT事業補助金は苦労されたと伺っています。どのような点に苦労されたのでしょうか。
資料を収集して申請するまでに時間を要したこと、着工時期と完成報告期限が義務付けられていたことから、かなりタイトなスケジュールを余儀なくされました。また、新設の補助金ということで、ダイキンエアテクノも未知数のチャレンジとのことでした。
しかし、ダイキンエアテクノと一体となって化石燃料の使用削減、CO2排出削減にメリットがあることを訴え、2021年6月というギリギリのタイミングでしたが、何とか申請にこぎつけることができました。
5.密に協議をしながら二人三脚で対応
短い工期でどのようにして完成させたのでしょうか。
10月初旬から2月中旬まで、実質63日間という短い工期で行っていただきました。その後、2月末までにダイキンエアテクノへの一括支払いを完了し、さらに化石燃料の使用削減、CO2排出削減の継続的なモニタリングと報告までがSHIFT事業補助金の要件でしたから、とにかく慌ただしいなかで工事が進んでいきました。
基本的には月1回、ダイキンエアテクノにロードマップを出してもらい、進行状況に合わせて臨機応変に対応していただきながら工事を進めていきました。行っていただいた工事は、長きに渡って工場を温めてくれた重油暖房機6台の撤去、高効率空調機の設置、エアー搬送ファンの設置、各種電気工事・重油貯蔵タンクの砂埋め処理・重油配管および煙道の撤去工事といった付帯工事など、多岐に渡りました。延べ人数で約650名におよぶ作業員の方が関わったと伺っています。
しかも、平日は工場が稼働しているため、外周を除いて基本的に工事は土日のみ。月に1日程度しか止められないラインを先に行い、その後、通常ラインの工事を行っていく流れでした。ダイキンエアテクノばかりに負担を強いるのは申し訳なかったため、ボリュームの少ない箇所は夜勤にして、昼に工事ができる対応も行いました。
大きなトラブルもなく工事を進めることができたのは、ダイキンエアテクノと密に協議をしながら二人三脚で進めることができたからだと思っています。当社の安全管理基準に合わせたダイキンエアテクノの協力にも感謝しています。
空調機の最適化はどのようにして行ったのでしょうか。
位置や向き、高さなどを従業員全員で決め、ダイキンエアテクノにも確認していただきながらレイアウトを決めていきました。人によって温度に対する感じ方は異なるため、単純には言えませんが、ある程度は空調をコントロールできていると思っています。レイアウトもベストに近いと考えています。
新しく設置したヒートポンプエアコンの室内機と室外機
6.CO2削減の効果と利便性を実感
空調機を更新したことによる効果はありましたか。
CO2削減に貢献
現在、年3%のCO2削減を目指していますが、今回の取り組みだけで年2.6%ほど削減することができました。今後も継続していく必要があるため、簡単ではありませんが、目に見える成果が出たことは今後のモチベーションにつながります。
空調機をコントロールできる利便性
以前は出社してから重油暖房機のスイッチ入れていたため、工場全体が温まるのは昼近くになっていました。現在は、あらかじめ時間設定をしておけば、朝早く出社してスイッチを入れる必要がありません。従業員が業務に取り掛かる前には、かなり暖かくなっています。空調機のON/OFFを自由にコントロールできるようになったことで、最新の空調機であることを実感しています。
7.SHIFT事業補助金の事例として参考に
空調機を更新した先行ユーザーとして、工場の環境改善に悩む企業に向けたアドバイスがあればお願いします。
ダイキンエアテクノにとっても、今回のSHIFT事業補助金を利用した空調機の更新事例はほとんどないと伺っています。ハードルが高い補助金ではありましたが、無事に更新を完結できたことに関しては、ダイキンエアテクノおよび協力いただいたコンサルタントには感謝しかありません。当社と同じ事業規模の方々には、ぜひ今回のSHIFT事業補助金の活用を参考にしていただければ幸いです。あとに続いていただければ、当社としても嬉しい限りです。
8.横展開を継続的に実施していく
最後に今後の展開をお聞かせください。
今年は名張工場(2022年8月3日現在、SHIFT事業補助金の採択が決定)、来年は西明寺 第2工場に対してSHIFT事業補助金を活用した空調機の更新を計画しています。西明寺 第1工場で結果を残すことができたので、名張工場も西明寺 第2工場もダイキンエアテクノとともに同じスキームで取り組んでいくつもりです。
また、これを機に暑い・寒いという人の感覚に頼るのではなく、各工場のあらゆる箇所に温度計と湿度計を設置し、場所ごとに作業しやすい快適な温度・湿度を分析する取り組みを始めました。これにより新たな気づきも得ることができました。分析結果をどのように運用していくかは決まっていませんが、名張工場そして西明寺 第2工場における空調機の更新に利用できればと思っています。
これからもダイキンエアテクノとは長いお付き合いを考えていますので、引き続き手厚いサポートをよろしくお願いいたします。
ダイキンエアテクノ担当より
この度はお忙しい中貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。これからも温室効果ガス削減や2050年カーボンニュートラルの実現に向け状況に応じたご提案をさせて頂きたいと考えております。空調保守に対しても心地よく満足をご提供できるように努めてまいります。今後もダイキンエアテクノを末永くよろしくお願いいたします。
ダイキンエアテクノ中部支店 津営業所一同
取材日:2022年7月