オフィス
2018.07
大阪府
株式会社ダイキンサンライズ摂津
体温調整が難しい人も働きやすいバリアフリー環境を確保するため、床吹出空調を採用しました。カーペット自体が吹出口になっているので、歩行に障害がある人も移動を妨げられません。
株式会社ダイキンサンライズ摂津 代表取締役社長 澁谷栄作氏
ダイキン工業の特例子会社で重度障がい者多数雇用事業所である株式会社ダイキンサンライズ摂津(大阪府摂津市)では、障がい者雇用のさらなる拡大を目指し、2018年6月に新事務所棟を完成させました。ダイキンエアテクノが施工したバリアフリー対応の空調・換気設備、および太陽光発電・蓄電システムへの評価を、代表取締役社長の澁谷栄作氏にうかがいました。
目次
株式会社ダイキンサンライズ摂津
重度障がい者多数雇用事業所として、大阪府・摂津市・ダイキン工業株式会社の出資により1993年に設立(出資比率:大阪府38.4%、摂津市4.4%、ダイキン工業グループ57.2%)。空調部品組み立て、油圧機器加工・組み立て、フッ素化学品製造、CAD図面作成等を行う。従業員161名(うち障がい者143名[重度69名]、2018年6月26日現在)。
1.バリアフリー設計の新棟の空調、換気、太陽光発電、および蓄電設備をダイキンエアテクノに依頼
ダイキンサンライズ摂津では今回、ダイキンエアテクノに何を依頼しましたか。
2018年6月に竣工した新事務所棟の、空調(自動制御システム・中央監視盤を含む)、換気、太陽光発電、および蓄電設備の施工を、ダイキンエアテクノに依頼しました。
この建物の概要を教えてください。
鉄骨2階建て、延床面積2,547m²で、1階が事務所、応接室、休養室、倉庫などから成り、2階が食堂(兼講堂)、会議室、更衣室などから成ります。
当社のこれまでの建屋と同様、設備は可能な限りバリアフリー化されています。ドア、通路、エレベーター、トイレ、洗面台などは、すべて車椅子での利用に配慮した設計になっています。通路の中央には、弱視や視野狭窄の人のためのガイドラインが引かれています。聴覚障がい者に避難指示を伝えるフラッシュライトも、トイレ等に設置されています。今回新たに、オストメイト対応トイレも設置しました。
今回の工事内容 |
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2. 400m²の事務所に床吹出空調を採用。体温調節が難しい人も働きやすく
新事務所棟の空調・換気設備について、バリアフリー化の観点でダイキンエアテクノに要望したことはありますか。
空調のバリアフリー化という点で言うと、今回は事務所(約400m²)の空調を床吹出式にしてもらいました。
リモコンは、当社のこれまでの建屋と同様、車椅子でも立った姿勢でも操作しやすい高さに設置してもらいました。
空調を床吹出式にすることが、なぜバリアフリー化になるのですか。
一般的なオフィス空調で冷房・暖房した場合、室内の温度分布にある程度ムラが出ることが避けられません。
身体機能に障害のない人にとってはわずかな寒さ・暑さでも、体温調節に障害がある人にとっては、体調を崩し仕事ができなくなるほどの障壁になり得ます。長時間座ったままの事務作業では、特にそうです。
「寒ければ動いて体温を上げる」ということも、動作に障害がある人には困難です。
適温に調整された空気が、適切な風量で床全体から吹き出すオフィスにできれば、体温調節や動作に障害がある人も、仕事に参加しやすくなります。
ダイキンエアテクノは、この要望にどう応えましたか。
ダイキンエアテクノは、床吹出式の空調を、従来より低コストで実現する方法を提案してくれました。
従来の床吹出空調は、金属製の吹出口を使うため、「金額がやや張る」「吹出口に強い衝撃が加わると変形する場合がある」という問題がありました。
この問題に対してダイキンエアテクノは、「通気加工された特殊なカーペットを吹出口として使う」という解決策を提案してくれました。
このカーペットは、表側から見るとごく普通のタイルカーペットですが、裏側に多数の通気孔が加工されています。強度と通気性を両立させた中空スチールOAフロアの上に敷き詰めることで、従来よりはるかに安価な空調吹出口として機能します。段差になるような開口部がないので、車椅子や杖を使う人の移動の妨げにもなりません。
3.「バリアフリー化」と「省コスト」のバランスが取れた空調システムができた
この床吹出空調を実際に使ってみてのご評価をお願いします。
現在最初の冷房シーズンに入ったところですが、非常に快適です。
一般的なオフィス空調ですと、冷房時に吹出口から出る空気は15℃弱まで冷やされているので、近くで直接風に当たると寒く感じる人もいます。この床吹出空調の場合、吹出口から出る空気は20℃強にしてありますし、風量もごく穏やかなので、寒いほどの気流を感じさせません。それでも室内は十分に涼しく保たれています。
よく冷房時のオフィスで見るような、ひざ掛けをしている人もいません。天井に吸込口があって、空気を循環させているので、足元に冷気がたまらないからです。
床全体が空調の吹出口になっている快適さは、暖房時のほうがよく感じられると思います。今から冬が楽しみです。
日常の手入れは、通常のカーペットとまったく同じように掃除機をかけるだけです。
ただ、この床吹出空調には、立ち上がりが遅いという弱点があります。運転を始めてから30分ほどして、ようやく効き始めてくる感じです。ですので、使う時間が限られる食堂や会議室には、立ち上がりの速い一般的なオフィス空調を採用しました。
全体として、「バリアフリー化」と「省コスト」のバランスがうまく取れた空調システムができたと思います。
使用時間が限定される食堂や会議室には、立ち上がりの速い一般的なオフィス空調を採用した
4.太陽光発電で環境貢献しながら、蓄電設備の併用で災害時の電源を確保
ダイキンエアテクノが施工を担当した太陽光発電・蓄電システムについてお聞かせください。
太陽光発電は、平常時の環境貢献と、災害時の電源確保のために導入しました。蓄電池を併用することで、震災等で電力会社からの電力供給が途絶えたときも、建物内のサーバー、照明、トイレ、水道など最低限の設備の電源を、最低1晩は確保できるようになりました。
太陽光パネルには高効率の単結晶パネルを採用しました。これにより、屋上設備が建築基準法上の「建物の高さ」に算入されない条件である「建築面積の8分の1以内」をクリアしながら、必要な発電量を確保できました。
5.今後も障がい者雇用のさらなる拡大を目指す
この新事務所棟を建設した背景を教えてください。
ダイキンサンライズ摂津は1993年に肢体不自由の社員16名でスタートし、98年以降は聴覚、知的、精神、視覚と障害の幅を順次広げながら雇用を増やし、現在は社員161名(うち障がい者143 名)が活躍しています。
今後も事業の規模・領域を拡大し、2023年度中に障がい者雇用を210名まで増やすことを目指しています。
同じ敷地内にある工場棟(鉄骨3階建、延床面積2,862m²)は、当社がまだ「障がい者雇用100名」を目指す途上にあった2009年に竣工した建物で、従業員130~140人程度を想定して設計されていました。今回完成したこの新事務所棟は、従業員250~260人までを想定して設計されています。
これまで工場棟にあった事務所、食堂、倉庫等の機能をこの新事務所棟に移せたことで、工場棟の作業スペースを大幅に拡張できました。今後もより多くの障がい者が生き生きと働ける会社にしていくための、施設面での基盤がこれで整いました。
ダイキンサンライズ摂津における障がい者雇用の取り組みを、見学することはできますか。
見学には積極的に応じています。毎年1300人前後の見学者をお迎えしています。標準で2時間~2時間半ほどの見学メニューを用意しています。
工夫と道具による改善で障がい者も健常者と同じく働くことができる様子や、障害の種別に関係なく互いを認め合い、自分ができることを生かしていきいきと働く姿をご覧いただくことで、障がい者の雇用拡大に貢献することも、私たちの大切な使命と考えています。
お話をうかがった方
株式会社ダイキンサンライズ摂津 代表取締役社長 澁谷栄作氏
1980年ダイキン工業株式会社入社。大型空調・冷凍機の設計・開発に従事。2012年ダイキンサンライズ摂津取締役就任。2013年より現職。
ダイキンエアテクノ担当より
澁谷社長、今回はお忙しい中貴重なお話をありがとうございました。障がいのある方にも働きやすく、地球環境に貢献しながら災害にも備える施設の施工をお手伝いでき、私もうれしく思っております。今後もダイキンエアテクノをよろしくお願いいたします。
(ダイキンエアテクノ関西支店 営業部 三林聡志)
今回の工事の概況
建物 : 事務所棟(鉄骨造、2階建、延床面積2,547m²)
工事内容 : 空調・換気設備、太陽光発電・蓄電設備 (新築)
工期 : 2017年11月初旬~2018年6月末
取材日:2018年7月